匂いと味の感覚
日常的に感じる匂いや味を私たちは嗅覚や味覚によって認識しています。これは人間だけでなく多くの動物に備わっており、本能的に自分にとって栄養になる物、毒になる物を選別することができます。
そして長い進化の過程で得たこの知識は遺伝子レベルで組み込まれており、学習すると同時に生まれつき発現してくるのです。そうやって自分の身を守ろうと自然に生まれてくる感覚なので、生後すぐに機能し始めます。
生まれたばかりの乳児は、母親の胎内に宿ってから目を閉じていたため光が入らないことから視覚が十分に発達しておらず、同じく聴覚もまだまだ十分な能力が備わっていません。その不自由な五感の中で、生き抜くために大切な「食」に関わる機能は嗅覚と味覚です。匂いで物を識別し、母乳の味を感じることで安心感を得ます。
胎児の嗅覚と味覚に関わる器官は初期の頃から形成されており、口ができ始めるのは7週目過ぎくらいから、8週目あたりになると鼻の形が形成されていきます。20週目くらいまでには舌や口腔内の感覚ができているため、この頃には味を感じたり匂いを嗅ぐ能力も発達していると考えられます。さらに28週目あたりでは、「甘い」と「苦い」などの違いを認識し、甘味を好むこともわかっています。
そのため、妊娠初期の母親が食べていた食事などは、赤ん坊が生まれてからの味覚や食の好き嫌いを左右する要素の一つでもあります。
また、実験によって得られた結果としてもこの2つの感覚の発達は驚異的です。生まれてすぐの赤ん坊に砂糖水を少し入れるとにこやかに口を動かしますが、すっぱいクエン酸を入れると顔をしかめて嫌そうな表情をしたという結果があります。味覚と嗅覚は私達大人でも個人差がありますが、赤ん坊や子供でも鋭い子やそうでない子がいます。ただ本能的なものは共通しており、「甘味」を好み、「酸味」「苦味」「辛味」を嫌がる傾向を持ちます。
また、匂いで自分の母親の母乳を嗅ぎ分けたという実験結果も残っています。
このような五感の発達と共に少しずつ学習していき、食べ物の好みが決まってきます。

初めて食べる物には警戒し、匂いを嗅いだり少し味見をしたりして安全かどうか確かめます。これらの警戒をくぐり、食べて安全だということが認識出来ると、2回目以降躊躇することなく食べることができます。
ですが自分の好みに合わなかったり、食べた時に体調が悪くなったりすると、今後も同じようなイメージが付きまといその食べ物が嫌いになります。
このように学習することで好きな食べ物を見つけることを『味覚嗜好学習』、嫌いな食べ物を見つけることを『味覚嫌悪学習』と呼びます。
幼児期の重要性
近年ではコンビニエンスストアやファミリーレストランなど、いつでもどこでも食べ物が得られるようになりました。一見便利になったように感じられますが、この食文化の変化により青少年の食の乱れ、偏った食事が問題視されています。
ですが、これは食事を得られる「場所」が増えただけではなく、食の「質」の変化、さらには幼児期の食事に肉や油、強い香辛料が用いられたことも原因の1つに挙げられます。
時代とともに大人の食事のバリエーションは増え、自ずと子供にも、自分たちと同じような食べ物、自分たちが美味しいと感じる物を食べさせようとするようになりました。ですが子供の舌は大人が感じる味覚より敏感で、大人が薄いと感じる味でも十分に味わうことができます。逆に大人と同じような味では刺激が強すぎるのです。
しかしその感覚を無視して濃い味を多く与えていると、その味が基準となり、成長するとより強い味を求めるようになってしまいます。
これにより過食や塩分過多などの現象が起こり、食の乱れへと繋がっていきます。このような事態にならない為にも、幼児期の食事には十分に気を配り、正しい知識を修得する必要があります。